「ポルの一族」

 まず前フリ。

 コンテンツ文化史学会2011年大会「オタク・ファン・マニア」の2日目だけ行ってまいりました。
   http://www.contentshistory.org/2011/11/17/1051/

 三崎尚人さんの発表は、女性むけのパロディ同人誌の動向についてざっくりおさらいという内容。そのなかで、言い方はちがったと思いますが「「ポルの一族」はやおい……ですよね?」と小首をかしげておっしゃっておられました。*1
    http://www.st.rim.or.jp/~nmisaki/

 これについて考えるーというか考えるためのメモを出してみたいと思います。「ポルの一族」を私がきちんと読んだのは「萩尾望都に愛をこめて」(再版)を2007年1月1日に購入した時です。
 それ以来読んでいなかったので、昨日は「性的なネタはあったけどずばりのやおいかというとちがうよーな」というぼんやりとした記憶はあったものの、自信を持って言える状態ではなく。今日、さっそく「萩尾望都に愛をこめて」で「ポルの一族」を確認。ご存知のない方も多いようなので、自分の備忘を兼ね、メモしてあった内容とあわせて概要をまとめてみます。
 「漫画新批評大系」の基礎的な書誌情報は↓を参照してください。

サイト:図書の家 > 【米沢嘉博の仕事:暫定版】─少女漫画関係を中心に > 版元別[掲載状況調べ] > 迷宮
   http://www.toshonoie.net/shojo/05_list/yonezawa_works/yonezawa_list_before3_mk.html
 
 初読時も再読しても思ったのは、これは批評男子の描くものだなーということです。後に「文学的」とさかんに評されることになる萩尾作品をまったく別のノリでおちょくりまくることにより、本物のシリアスさ、スキのなさが浮かび上がります。

 ということでここから本題。長いのでたたみます。
 「ポルの一族」は「漫画新批評大系」に掲載された後、「萩尾望都に愛をこめて」に総集編が掲載されました。

■「漫画新批評大系」vol.0 創刊準備号
サブタイトル:ほるかする一族によせて 前編
作者:無視プロダクション
ページ数:7
※「漫画新批評大系」vol.0にはヘドガーのヌードグラビアがついており、「BACKY=ARROW」とサインが入っている。

■「漫画新批評大系」vol.1 創刊号
サブタイトル:ほるかする一族によせて 後編
作者:BACKY=ARROW AND G.M.
ページ数:8

■「漫画新批評大系」vol.2
未確認

■「萩尾望都に愛をこめて」
作者:BACKY=ARROW G.M.+1
ページ数:18

■「漫画新批評大系」vol.3−4合併号
サブタイトル:絵デス‥‥
作者:Backy Arrow
ページ数:2

 それで内容ですがー。
 ストーリーらしいものはありません。「ヘドガー=ホモトネル」「マラン=ヒワイライト」「ジングルベル」といった「ポーの一族」をもじった名前の登場人物たちが「カンチョウにしよう!」「ポーのいちぢく‥‥!」*2みたいなアホらしいことをえんえんとつづけていくという作品。

 1号ずつみていきます。

 創刊準備号は、「3大評論vs3大パロディ」と表紙に大きく書かれています。「ポルの一族」は、3大パロディのうちの1本として掲載されました。他の2本は下記のものです。

・「まんがの無視 No.1」(企画:MTP/製作:関西臭英社)
・「やさしいお料理教室 萩尾望都の作り方」(作者名なし)

 「まんがの無視」は「まんがのむし」*3のもじりと思われます。新聞ふうというのか、段組でいろんな作家のパロディやふざけた記事が並びます。No.1とありますがおそらく2回目は掲載されていません。
 「やさしいお料理教室 萩尾望都の作り方」は文字メインの記事。
 3大パロディのうち2本までが萩尾さんをネタにしています。萩尾望都は当時のまんがファンの共通言語であったので割合が多くネタにされるのはごく自然なことかと思います。誌面から「ふざけたことをしよう」というノリのなかで生れたと推察できます。

 創刊号は、特集が「萩尾望都プチ・ア・ラ・カルト」。ですが、「ポルの一族」は特集のなかでなく巻末に掲載されています。扉デザインが凝っています。
 vol.2は未確認。総集編で18ページなので、vol.2掲載は1ページということになるでしょうか。ただしページ数はメモを元にしているのでまちがいあるかも。
 3−4合併号は、巻頭ですが2ページのみということもあり、そんなに目立つ印象ではないです。「漫画新批評大系」の3〜5号は、2冊に分けられるという変則的なまとめ方をされています。3−4合併号と4−5合併号があるのはそのためです。
 「萩尾望都に愛をこめて」は、全52ページ。うち30ページはまじめな萩尾望都についての評論やアンケートです。「ポルの一族」総集編はうしろから2番めの記事です。最後に「ポルの一族とは‥‥?」(B,A)という1ページの文章が掲載されています。

 「ポルの一族」は、名前は有名でも多くの人にとってがんばらないと読めないものだった期間が長い作品です。それゆえの誤解もあると私は思っています。*4
 「ポルの一族」について私が誤解されているなーと思うことのひとつが作者についてです。BACKY=ARROWさんが現在、この作品についてすべての言及を引き受けておられますが、私が確認した範囲では3−4合併号が「BACKY ARROW」*5単独の作者名表記で、他のものは複数著者です。単独表記のほうが少ないのです。*6
 とはいえ、BACKY=ARROWさんがこの作品について責任を取られることは私はまったく違和感ないです。「ポルの一族」は、BACKY=ARROWさんの監督のもとに作られたものと私は推察しているからです。絵柄にバラつきがあるので、実際に絵を描かれたのは複数おられるかと思います。よーするに、ひとりの人が思いつきで描いたものではなく、みんなでもりあがって描いたものと私は思いたいんです。なんか知らないけど、このころって「みんなでやっている」というポーズが好まれたようで。「萩尾望都に愛をこめて」も「モトのとも」「いちゃもん」「明大SF研」「MOB」協賛と銘打たれており、実態としては迷宮の中の人なのに「みんなでやっている」感を出しています。そういうノリの中で生まれた、それが複数著者表記につながったと思うからです。ざっくりの話の時は「BACKY=ARROW」だけでいいと思います。
 
 まとまりませんが、最後に「ポルの一族」がやおいやおいではないかの件について。
 掘られた→ガニ股で歩くというところなど(特にこの歩き方)は、おそらく少女まんが由来の描き方ではありません。少なくともシリアスな少女まんがではまずやらない。こういうところは、少女まんがと少年まんがの結婚という意味でのやおいだなと思います。ストーリーらしいストーリーがないという意味でもやおいでしょう。
 「ポルの一族」はいわゆるホモネタは多いのですが、ロリコンが出てきたりとそれのみに留まらないので、主に女性にむけて男同士の性愛を描く作品という意味ではやおいではないと思います。

 今はこれがせいいっぱい。思うようにまとまらなかったので後日なおすかも。

20111211の追記
発行日からおわかりかと思いますが、「漫画新批評大系」vol.3−4合併号掲載分は総集編には入っていません。 


*1:スライドで「漫画新批評体系」となっていたのは「漫画新批評大系」のタイプミスだと思いました。

*2:なぜかリーダーは4点。とりあえず2点2字分の表記としています。

*3:手塚ファンクラブの人脈からできたまんが全般を扱う評論系サークル(と、まとめると違和感あるなあ)。創作でも特定作家のFCでもないそれなりの規模の集団は当時としてはめずらしかった。迷宮の中の人に「まんがのむし」に出入りしていた人も多い。このタイトル自体は身内ネタといえると思う。

*4:萩尾望都に愛をこめて」は米沢嘉博記念図書館で閲覧できます。「漫画新批評大系」の「ポルの一族」掲載号はvol.2以外はありました。現在は少なくとも東京に行くことができる人にとっては、読むことのできる作品になったと思います。

*5:この号は「=」がない。

*6:何かで引用する場合は、「BACKY=ARROW」単独はまずないと思われます(vol.2未確認なので言い切れない)。