雄っぱいイベント(後編)

※2014/6/15修正。

http://d.hatena.ne.jp/mtblanc/20140612 のつづき。長文です。

 昨日の「二村ヒトシ×金田淳子×岡田育「20歳のときに知っておきたかった雄っぱいのこと」は前回に引き続き内容ぎっちりで刺激的でした。

 今回も同じ51冊から乳首描写をさぐりました。
 イベントでは一部紹介でした。せっかく調べたので金田さんに提供したデータをこちらで公開します。


 元となった51冊はこちらにあるものと同じです。前回、作品数え間違えており、85作品としていましたが、86作品です。データ元として問題というかろいろ留保が必要なのも↓で書いたとおり。
http://d.hatena.ne.jp/mtblanc/20140117

 まず、51冊ざくっとあたってみてどういう項目を立てるかを考えます。
 前回のように「名称」でなんとかなると思いきや、大半が「乳首」「突起」なんです。その他「突起」「乳頭」「胸の先」などありますが少数……。
 一応、呼称のデータをとりました。「乳首」「乳頭」を「一般的な名称」、その他を「言い換え」と分類。下記のようになりました。

一般的な名称 44(59%)
言い換え    31(41%)

 半分以上が「乳首」。バラエティ少ない。
 
 ということで考え方を変えてまた読んでみます。

 まず気が付くのは「エロいシーンがあるのに乳首が出てこない場合がけっこうある」ということです。穴調査の時はエロシーンがない(キスどまりなど)という作品はあったものの、エロがあるのに穴はないというのがなかったので盲点でした。

乳首描写の有無

 乳首描写の有無の数字を出します。

有  71(61%)
不明 14(12%)
無  31(27%)

 乳首という単語が出た場合は、性的なものとして出てきます。

 カメラマンが指示した。ぴかちゃんはためらいながらレザーの指先で服を押しあげる。
 ドキリとした。ピンクの乳首が下からのぞき、それはピン、と小さく立ちあがっていたのだ。
『王子さまは白馬にのって』(白城るた/あんず堂 アプリコ・ロマン/1998年2月発行)p.174

 というようにエロシーンに至らずとも乳首が出てくる場合もカウントしています。
 「不明」は「胸」「胸元」への愛撫の描写はあるものの、乳首に触れたとは断定できない描写の場合。
 「無」はエロシーンであるにも関わらず、乳首描写のないものです。

 1シーンで「乳首」「胸」の両方が使われている場合は両方カウント、1シーンに「乳首」が複数箇所出てくる場合のカウントは1です。
 エロシーンがあっても1/3は乳首がないという結果に。ただ、サンプルが古いので最近の作品だけで数えていったら割合は変わると思います。

乳首描写のタイミング

 挿入「前」「最中」、「挿入なし」に分けました。「挿入なし」はモブキャラに乳首をいじられてあわや……というところまで行ったけど助けられた場合や、カップルでムードが高まっていじったものの中断された場合などです。

前  69(81%)
最中 8(9%)
無  8(9%)

 圧倒差的に前です。

乳首描写の長さ

 乳首をいじる描写の長さを考えます。
 「5行以下」「6行以上」「1頁以上」にわけました。

5行以下 48(65%)
6行以上 22(30%)
1頁以上 4(5%)

 「タイミング」とあわせて見るとわかると思いますが、BLにおける乳首描写は「挿入より前に5行以下」であるものが大半であることがわかります。現物を数えた訳ではありませんが、これはおそらく現在も同じかと。

 1ページ以上の4つは下記3作品です。

・『挑発の15秒』(秀香穂里徳間書店 キャラ文庫/2005年1月発行)
・『ご主人様と犬』(鬼塚ツヤコ/リブレ ビーボーイスラッシュノベルズ/2007年6月発行)
・『オヤジだらけのシェア生活』(松雪奈々/二見書房 シャレード文庫/2011年10月発行)

 秀香穂里さんは乳首調教がテーマの同人誌「南くんの乳蜜」(『誓約の移り香』番外編)などを刊行されていることからもわかるように、乳首の比重の高い作家さんです。秀作品における乳首についてはたぶん評論2本は書けるくらいのこだわりがあると思われるのですが、『挑発の15秒』はキャラ文庫という軽めのレーベルなので「いくら秀さんでも期待できないのでは?」と思っていたら堂々と2ページ以上にわたって乳首をいじる描写を書いておられてさすがでした(p.205〜)。
 『ご主人様と犬』は元々同人誌ということもあり、文章の大半エロいシーンという作品です。なので、長いのも納得(p.69〜、p.173〜それぞれ約1ページ)。
 『オヤジだらけのシェア生活』は1ページくらい(p.206〜)。

 当日金田さんが紹介していたひちわさんはそれなりに読んでいるつもりがすっかり失念していました。『プラクティス』も『キャンディ』も好きなんだけど。今回とりあげた『昼となく夜となく』(ひちわゆかビブロス ビーボーイノベルズ/2004年4月発行)も乳首描写はあることはあるんですが、サラッとしています。つらつら考えてみるに『キャンディ』『プラクティス』のようにテーマにした場合とそうでない場合の差が原因かなー、と。作品ごとの出し方の問題というか。秀さんは別に乳首を期待されていない作品でもスキあらば乳首の姿勢を感じる(個人の感想です)ので、印象に残っているのだと思います。

イラスト

 今回はイラストも見てみます。
 なんでこの項目を入れたかというと、乳首調教があるくらいなのだからSM色の強いものが詳細に描写されているのではないかという予想をしていたのです。で、51冊中唯一のSM作品の『私が死んだ街』(神崎春子竹書房 麗人ノベルズ/1996年6月発行)には乳首祭を期待していました。文中に「乳首」という単語は3シーン*1出てくるのですが、ピアスをしている〜みたいな内容で愛撫ではないんです。その一方で乳首がきちんと描かれているイラストが4枚*2もあるのです。しかもうち1枚は攻の乳首です。

 そもそも裸の胸が描かれる必要のあるシーンが1冊にいくつあるのかという問題でもあるのですが、大半は1冊あたり1〜2枚です。その中で乳首が見える体勢をとっているのはさらに少ないです。
 乳首をいじる文章があってそれに即してイラストがつけられた場合以外だと、どんなに脱いでいようとも案外描かれないというのは言えるのではないかと思います。何が言いたいかというと4枚は多いということです。

 ということで数字。
 「乳首が見える体勢・服の状態であるイラスト」のうち乳首が描かれている人物のカウントをしました。結果は下記のとおり。

受 24(77%) 
攻 5(16%)
受攻 2(2%)

 51冊86作品の中に31枚しか乳首が描かれていません。
 「受」の場合は攻の乳首は描かれていないか見える体勢ではないということです。受攻両方に描かれているものが2つありましたが、うち1点*3は攻の乳首は線画のみですが、受はトーン処理がされています。
 乳首の強調具合も比べたかったのです。初め、トーン処理有=強調で考えていたのですが、シルエットっぽい描き方にちょっとトーンみたいなの(乳首があんまり目立っていない)があったあたりから迷いまして。数が少ない割に判断に迷う例が多く断念。
 
 今回見たのは本文中のイラストのみです。もともと文章と連動しているかも加味するつもりだったからです。表紙、口絵は除外しています。

次回があるのなら

 正直、乳首は件数が少ないということもありそんなに広がりのあるものではありませんでした。現在はもう少しバリエーションがあると思いますし、まんがに見られる攻の乳首(チクニー含)も小説に進出する可能性もあると思います。

 で、穴、乳首と見ていって思ったのは「両方とも受のものだなー」ということです。攻の存在意義ってなんなんだろう……と考えると竿に行きつきます。
 BL小説でエロシーンがある場合、竿のないものはありません。しかも最低2本は出てくる。

 ただ、1回のイベントで扱える情報量ではないと思うので(多すぎる)、むいてないというのはわからなくないです。別のテーマでもいいのですが、攻の話もできるものがいいです。
 



参考:乳首系商業作品リスト
※更新は停止しています。
http://seesaawiki.jp/w/tkb2008/
 

*1:p.37、p.149、p.161

*2:p.24、p.43、p.116、p.159

*3:『昼となく夜となく』(ひちわゆかビブロス ビーボーイノベルズ/2004年4月発行)p.149