萩尾望都『一度きりの大泉の話』(河出書房)

※この本の重大なネタバレはしていないつもりですが、気になる方は読了後いらしてください。

 


 萩尾望都さんの『一度きりの大泉の話』(河出書房)が刊行された。

 

一度きりの大泉の話

一度きりの大泉の話

  • 作者:萩尾望都
  • 発売日: 2021/04/21
  • メディア: 単行本
 
一度きりの大泉の話

一度きりの大泉の話

 

 

 この本が出ると聞いて「ついに」と思った人は多いと思う。私もそのひとり。出ると思っていなかった本だった。なんででると思っていなかったのかというと、人に話せるのならもうとっくに話していたはずだから、としか言えない。

 

https://twitter.com/mtblanc_a/status/1371456787363237891

 https://twitter.com/mtblanc_a/status/1371456788629917703

 

 発売告知が出た直後にこうしたつぶやきをしたのは、↑のように思っていたから。


 東京に来た時に同居していたこと自体は、何かのついでにお話しされることはあったので特に隠しておられなかったという認識でいた。
 とはいえ、竹宮さんが語ってきた分量と比べると萩尾さんの語ってきた分量はあまりに少ない。一読者としては、そこにアンバランスなものを感じることしかできなかった。

 少女まんが関連の解明されないであろう謎はいくつもあって、これもこのままだろうと思っていたところにこの本が出るという。担当編集さんの尽力に感謝したい。


 萩尾さんのまんがは割と電子化されているのだけど、活字の本やムック的なものはだいたい電子化されていない。しかし、この本は電子版が最初から出ることになっていた。
 と、いうことで発売日0時になると共に電子版を購入。ざっくり読了。


 思っていたより山岸先生の話が出てきてうれしい。山岸先生御自身が語られる印象よりは大泉に行ってたみたい。
 池田いくみさん、佐藤史生さんといった故人の話もこうしたかたちで残してくれたこともうれしい(いわゆる「大泉サロン」というといろんな人が出入りしていたけれど池田いくみさんの名前はなかなか出てこない)。

 その一方で、竹宮さんについてはどうしても必要な肝心のところ以外は、語られていないように感じてしまう。読む前の予想では、竹宮さんの話がメインで他の人は流れで出るカンジかなーと思っていたのでよけいにそう思う。
 いろんな人が出てくるのはその時代に関わった人のことは全部書いてしまいたいと思ったのだろうと思う。それと共に竹宮さんについて言葉が(私の予想より)少ないのはやはり、この本を出すと決めてなお語れないということなのだと思う。忘れようとしてきたので今となっては思い出せないのもあるだろうし、今なお「これ」という理解できないがために言及できないというのもあるだろうと思う。


 しかし、それでもこの本は私がずっと読みたかった本なのです。無理に真実(?)を語ってほしい訳ではありません。語りたくないことは語らなくていいと今なお思っています。しかし、大泉のことを語らないあまり、竹宮さん(だけではないでしょうが)と関係ない部分、あたりさわりのない部分まで封印されるのはいかがなものかと思っていたので、「ここまでは出せる」というのをおそらくすべて出してくださったことに感謝します。特に亡くなられた方については、本人がもう語ることはないだけに萩尾さんが書いたものを通して、私の直接会ったことのない方ばかりだけれど気配のようなものを感じられたのがうれしかった。


 後日、改めて読み返して時系列に(主に山岸先生関係を)見ていったり、各作品を読み返したりしたいと思います。

 

 

追記:
ところどころに挟まれたスケッチブックからのイラスト・ネームがどれもすばらしいです。ポーの展示図録にもありましたけど、もっと見たいです。

 

 

次の記事。

萩尾望都『一度きりの大泉の話』(河出書房) その2
https://mtblanc.hatenablog.com/entry/20210504/1620060274 

 

 

 

 

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