戦争はいかに「マンガ」を変えるか

戦争はいかに「マンガ」を変えるか―アメリカンコミックスの変貌

戦争はいかに「マンガ」を変えるか―アメリカンコミックスの変貌

・『戦争はいかに「マンガ」を変えるか アメリカンコミックスの変貌』(小田切博/NTT出版)

───以下目次───────────────
まえがき
第一部 アメリカンコミックス
 第一章 見えないアメリカンコミックス
 第二章 作家の居場所
 第三章 抑圧と会報
第二部 「9-11」
 第四章 「転向」するひとびと
 第五章 逃避の問題
 第六章 スパイダーマン二つの塔
第三部 戦時下のマンガ表現
 第七章 日本という言説空間
 第八章 饒舌と沈黙
 第九章 リベラルの右往左往
 補遺としての終章
あとがき
巻末附録
参考文献一覧
索引
───ここまで───────────────

 アメリカのまんがと911について書かれた本。

 まずそのためにアメリカのまんがのついてまんべんなく解説しています。なんでここで私がアメコミとか書かないかというと従来の「アメコミ」という言葉の想起させるものよりもっと広い範囲が扱われているからです。このような理由かどうかはともかく、本の中でも「アメコミ」って言葉は使わないようにしているのではないかという感触があります。

 私が唯一アメリカのまんがに触れたと思える体験は2005年11月に少女マンガ展を行った時に本屋等で見たもののみです。※1なので、アメリカのまんがについて何かを知っていると思ったことはありません(<このへん冒頭部の挑発に反応)。あの時見た本屋さんにずらっとあったものは何だったんだろうというのが最初第一部を読みながら考えていたことでした。まずここで、アメリカのまんが(いろいろな種類と呼称があります)と聞いて思い浮かべるものがいかに一部であるかがわかることになります。私の場合、基本的な興味はないところなのでまちがっているも何もなくて、白紙状態というべきです。これによって普段、まんがと聞いて思い浮かべる日本のものの範囲が適切であるのかどうかを思い返すことになりました。
 第二部が911とまんがというテーマで、戦争としての911、日常生活を破壊するものとしての911、社会の中の911とさまざまな面が検証されます。
 最後に日本のまんが(男まんが)との比較がされます。まんがと社会との関わりの事例を出しつつ、それはどういうことという位置づけを非常にクリアに打ち出します。小田切さんの文章を読む快感のほとんどは、賢くなったかのような錯覚をおぼえるところにあるのではないかと思うくらいわかりやすいです。小田切さんの咀嚼によってようやく輪郭が見えただけのものを自分が理解したとうっかり思ってしまいそうになる危険が。ただ、文章というのはそういう効力があるというのを小田切さんはご存知(なんだと思う。推測)で、自分の見方を提示しているという姿勢は崩さないので、読者としても安心して食べられます。危険なのはそれでわかったような気になることではないかと。

 何よりうっとりしてしまうのが論としての結構。章の冒頭に前章のあらましが1段落程度でまとめられていて、前の章を必死で読んでいて(必死というのは私の理解力の問題でそうなっているもの)、それがまとめるとどういう内容であるのかというのなんて思いもつかない身からすると相当たすかりました。たぶんこの本は、目次を見る→うしろから読むという順でも理解できると思います。整理整頓がいきとどいて誰も迷わない家のようです。
 整理整頓といえば、引用と地の文、保留と断定、推測と事実といった区分けがはっきりとわかるのも(論の基本とはいえなかなかわかりやすいように書けないもの)いいと思いました。

 最後のあたりは、まんがをまんが単体としてではなく社会との関わりを論じていくべき(っていうようなことが書かれている思うんだけど私のまとめが適切でなければ申し訳ない)ってあたりについて漠然としたいいかげんなことおおざっぱに書くと、社会とまんがという論は少なくとも私はできないと思っています。でも歴史とまんがは可能と思っていて、かつ、必要と思っています。なぜなら、今の(もしくは近年の)社会を正しく理解することが同時代に生きている人間がすることは非常に困難だと思っているから。もちろん、歴史的なことをふまえて、ある法則のもとに"この現象はここ"と位置づけることは可能だとは思いますが、それが自分の直感的な感想とズレた時、それでも論を組み立てていく作業ができるのかというと「どうなんだろう」と思ってしまうのです。

 ところで、ワタクシ、文中で引用されている本で読んだはずなのに、非常に読みづらかった記憶以外なんもおぼえてなくて1つも得たところと思っている本があるのですよ。そこからもきっちり有用な情報を引用しているところが個人的には「おお」でした。

 サイトをご覧のみなさんはご存知のように私の守備範囲※2からしてこれを読んで直接的に得る知識としては、興味のあるものはないです。まんがというひろいくくりとしては私の趣味と同じ分野とはいえ非常に遠いところを扱っています。それでもこれを読んでみて得るところがなかったかというとそんなことはないです。まんがそのものについて非常に考えさせられました。

 普段は、こういう感想は基本的に書かないで、全体的なことをあたりさわりのない範囲でかまちがいさがしのようなことしか書かないようにしているのですが※3、いろいろ書きたくなるくらい刺激的な本でした。

 この本の補遺はこちら→ Long Box: http://www4.atwiki.jp/longboxman/

※1 この時のことをここに書くつもりでまだでした。
※2 私の守備範囲はごくかぎられた少女まんがのみ。あとはわかりません。
※3 自分の意見とか感想を信用していないため。なのでここに書いたこともあくまでも現時点での暫定的瞬間的な感想です。