トーハクの特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」の情報がオープンになりました。
全四巻の全場面を一挙公開というおそろしい企画です。
【#鳥獣戯画のすべて 】昨日、特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」の報道発表会が行われました。会期は2020/7/14(火)~8/30(日)。擬人化した動物たちや人びとの営みを墨一色で躍動的に描いた国宝「#鳥獣戯画 」4巻の全場面を会期を通じて一挙公開!今夏トーハクは #ギガアツイ !https://t.co/Ych2VLZ6fL pic.twitter.com/DHcb1huzzG
— トーハク広報室 (@TNM_PR) 2020年2月14日
表さんのこのツイートから始まるスレッドも見てください。
東博の今夏開催「国宝 鳥獣戯画のすべて」展、公開された部分的情報から「文化で稼ぐ」「稼ぐ美術館」の刹那的で独善的で醜悪な面がありありと見て取れて、つくづく萎える。全4巻全長44m超を44日間展示替無しで一挙公開って、これぞ日本の博物館行政の「4=死」でございますとでも言うつもりか…。 https://t.co/TqeK5UhZfF
— 表智之 (@miche_r) 2020年2月14日
この情報で気になるのは「こんなことして大丈夫なのか?」というところです。鳥獣戯画は補修もされていて、割としっかりしたものです。人気もあります。なので実物が出てくる機会も多い。
と、いっても数百年前のものですから、1年あたりの公開時間は決まっている。
今回の発表で誰もが思い出したのは2014年~2016年にかけての巡回展での全巻公開でしょう(以後「5年前の展示」はこの3つの年度の展示をさすことにします)。
2014年~2016年
特別展「修理完成記念 国宝 鳥獣戯画と高山寺」
https://www.kyohaku.go.jp/jp/special/koremade/exhibition20141007.html
特別展「鳥獣戯画─京都 高山寺の至宝─」
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1707
特別展「京都 高山寺と明恵上人 - 特別公開 鳥獣戯画 - 」
https://www.kyuhaku.jp/exhibition/exhibition_s45.html
この時は、税金を投入しての補修が完了したということで国民に全巻見せる理由があった訳です。
また、京都、東京、九州の巡回展を年度にまたがって企画することで1年あたりの公開時間もクリアさせたものと思われます。
この展示では会期は前半後半にわかれており、会期中四巻すべて置かれていましたが、前半と後半で巻き替えをして見せる場面を変えています。各期だいたい150~200時間に収められています。
2014年京都 前半=204 時間 後半=161 時間 全期=365 時間
2015年東京 前半=152 時間 後半=153 時間 全期=305 時間
2016年九州 前半=195 時間 後半=135 時間 全期=330 時間
京都と東京は後半は開館時間を延長しています。それでも前期と公開時間が変わらなかったり、短かったりです。元から後半の公開時間が少ないから延長も可能だってと思われます。
九州は現時点で残っている情報では延長は確認できませんでした。
そして2020年のこちらの展示。
2020年
特別展 「国宝 鳥獣戯画のすべて」
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2009
気になる公開時間は。
2020年東京 416時間
5年前とくらべると閉館時間延長が多いです。
2016年九州は会期が長くて、48日あります。休館日は3日。しかし、閉館時間が全日9時半から17時なのでトータルの時間は330時間となっています。2020年東京より時間はずっと少ない。
もともと東京は時間が長い日があるとはいえなんでこんなに多いのか。
5年前は金曜20時だったのが現在は金土21時に延長、土日祝18時だったのが日祝は17時に短縮と変化しています。日祝18時→17時があるとはいえ、金曜がプラス1時間、土曜がプラス3時間と1週間で考えると開館時間は増えています(祝日は除外して考えた場合)。
トータル公開時間(=照明の照射される時間)は「和紙の本としてはこれでいいのかもしれないけど素人にあきらかにわかる範囲ではない」というというところ。全部一挙公開って見世物的にはおもしろいけどそれだけのような。
5年前は全期で305~365時間、今回は416時間で若干の不安はおぼえますが、専門家が計算して万全の体制を敷くでしょうからいいのかもしれないという程度ではあります。
蛇足ながら、5年前と同じ開館時間にした場合、2020年7月14日~8月30日の開館時間合計は50時間少なくなります(計算があっていれば)。366時間だと(巻き替えがあったとはいえ)5年前の全期とほぼ一緒で、なんとなく納得できる数字ではあります。
これぐらいでいいんじゃないだろうか。
入場者数にも目をむけてみます。
「独立行政法人国立文化財機構年報」によると入場者数は下記のとおり。
https://www.nich.go.jp/kiko/nendo/
2014年京都 203,900人
2015年東京 239,115人
2016年九州 161,172人
5年前の3回の展示でちょうど1000時間。入場者合計が604,187人。1時間あたり604人。最も入った東京で1時間あたり784人。
2020年の展示は416時間です。1時間600人として24万人、700人として29万人。
30万人さばく体制が必要ということになります。夏のさかりに30万人て本気なのかしら。と、思ってしまいまいすが、1時間700人以上さばける体制ができるであれば可能といえば可能なのです。トーハクは広いですから、できるのかもしれないです。
とはいえ、オリンピック期間にピークがやってくるのは容易に想像できる訳で。いつもより多いと思われる多言語対応、混雑対応、そして列形成等々考えるとかなり労力というかコストがかかることは想像できます。もっと言えば、コストをかけたところで想定外の人数がやってきたら、柔軟に予定を変更しないといけない。それを判断できる人を毎日詰めさせないといけない。
トーハクですからできないことはないでしょうが、終わるまで相当な緊張があることは想像にかたくありません。いろんな意味でもう少し余裕のある計画にできなかったのかというのが率直な感想です。
ここまで見て気になったのが開館時間。遅くまであけてくれるのは便利ではありますが、ここまでしなきゃいけないんでしょうか。44日中、29日が8時間以上あけることになっています(11.5時間もしくは9.5時間)。
そろそろ開館を10時とか11時とかにしていいのではないだろうか……。時間で区切ったチケット発売ってむずかしいのかしら。
と、いうことで結論は
鳥獣戯画の労働時間(?)も気になりますが、スタッフさんの疲弊度合いが気になる
です。
以下、私のツイートと時間計算表。見たい方だけどうぞ。
RT 巻子本来の鑑賞は肩幅くらいの幅で繰っていく方法だと思いますけど……。絹本で1ヶ月/1年がセオリー(ただし四半世紀前情報)なので、ギリギリを攻めたんだと思います。展示時の照明が気になるところです……。
— 白峰彩子 (@mtblanc_a) 2020年2月14日
こんなことするより適度なスピードで撮影して、つべで高画質字幕つき全巻公開してほしいなー。ずっと見ていられると思う。
— 白峰彩子 (@mtblanc_a) 2020年2月14日
これは鳥獣戯画が絹本という話じゃなくて、最もデリケートな絹本がこの規定なので和紙はもっと長いだろうという推測です。「1ヶ月」も8時間照射二十何日とかそんなんです(損傷の危険があるものはもっと短い)。https://t.co/8yCudOkmwp
— 白峰彩子 (@mtblanc_a) 2020年2月14日
トーハクは閉館時間がいろいろなので、1日8時間では計算できない。現時点公開されている情報で開館時間を計算すると44日間で416時間。8時間照射だと52日相当。照明明度も計算に入っているはずなので日数を稼ぐために暗くする等のやり方はありますが、夏休み企画では厳しいと思われます。
— 白峰彩子 (@mtblanc_a) 2020年2月14日
これくらいの明るさで年間何日(何時間)で計算しているはずなので、年度内の公開は一切しないつもりの企画と思われます。
— 白峰彩子 (@mtblanc_a) 2020年2月14日