「ケサラン・パサラン」終了後

 個人的雑記です。「ケサラン・パサラン」終了後に山岸ファンがどういう生活(?)をしていたかをまとめておきたいと思います。

 まず、「舞姫」「ケサラン・パサラン」が終了し、毎月「ダ・ヴィンチ」を買う生活が終わりました。「舞姫」予告掲載の2000年10月号から2012年10月号まででしたから、長かったです。つうか、この「ダ・ヴィンチ」どーするんだ……という状態。

 で、主なできごとは下記のとおり。

2012年09月 エッセイまんが「単なるおカキ」
2012年10月 連載まんが「ケサラン・パサラン」終了
2012年10月 エッセイまんが「猫・ねこ・ネコ」
2013年02月 短期連載「言霊」開始
2013年03月 短期連載「言霊」終了
2013年07月 展示「バレエ・マンガ 〜永遠なる美しさ〜」@京都 開始
2013年07月 同展示図録にインタビュー掲載
2013年07月 展示「ほっかいどう大マンガ」開始
2013年12月 短期連載「艮」開始
2014年01月 短期連載「艮」終了
2014年04月 「ダ・ヴィンチ」20周年記念号にコメント掲載

(「舞姫 ポストカードブック」刊行発表)
2014年04月 「Mei(冥)4号」インタビュー掲載
2014年04月 エッセイまんが「続・恐怖の甘い物一家」
2014年04月 「死神(前編)」

・2012年

 エッセイまんが2本のみ。長いお仕事の後だから仕方ないなーと思いつつ、さみしくもあり。

・2013年

 新年早々「言霊」情報が出て、単行本化。原画を出展された展示が2つと夏ごろまではけっこう露出された年でした。『完全版 日出処の天子』の刊行もあり、新作は少なくても何やかやで活動されるのかなー(「残酷な神が支配する」終了後の萩尾さんのように)と思いはじめたところで年末に「艮」開始。

・2014年

 「艮」の後はまたしばらくお休みかしらと思いきや、はじめての出版社(幻冬舎コミックス)での*1お仕事。長い話が続いた後で、そろそろピリッとした短編が読みたかったので最近の作品は私は割と好きです。今年後半も2〜3作くらい読めたら幸せです。
 
 以上をふまえて↑のまとめを見てください。「ケサラン・パサラン」終了後だと13項目。うち4項目が今月のできごとなのです。ここ10年以上くらい、山岸ファンとしてのコストは月平均1000円以下だった訳です。山岸先生のためにこれだけお金を使うのは久しぶりでした。*2
 twitterで「今月は山岸ファンの盆と正月です!」と書きました。本当に今月は5日発売の「ダ・ヴィンチ」にはじまり、28日発売(予定)の「スピカ」まで山岸情報がひっきりなしでファンとして特別な月でした。後からはまた別の感想になると思いますが。
 
※5月1日に修正。


*1:5月1日の追記
「はじめての」と書きましたが、2012年9月発売のNo.12にエッセイまんが「単なるおカキ」を描かれているのでちがいました。申し訳ありません。表紙にもきちんと名前が入っています。
コミックナタリーの記事(http://natalie.mu/comic/news/115480)でも「山岸が同誌に登場するのはこれが初めて。」とありますが、ちがいますね。

comicスピカ No.12

comicスピカ No.12

*2:複数冊買いや展示のための交通費は除きます。

20世紀エディトリアル・オデッセイ: 時代を創った雑誌たち

版元サイトはこちら→
http://www.idea-mag.com/jp/publication/b043.php

 『20世紀エディトリアル・オデッセイ: 時代を創った雑誌たち』(赤田祐一ばるぼら誠文堂新光社)が刊行されました。
 雑誌掲載時より判型が小さくなったこともあり、デザインも一新。ぎゅぎゅぎゅと情報のつまった1冊です。まあ、書くまでもなく雑誌掲載の時も高密度だったんですが……。

 「コミックマーケット創成期と同人誌」「米沢嘉博の書物迷宮」について少しだけ感想というかメモを。*1

 「コミックマーケット創成期と同人誌」の部分については、以前 http://d.hatena.ne.jp/mtblanc/20110816#p2 「アイデア」掲載時に紹介。この時といろいろ変わっていますが、キャプの問題がなくなったのが何よりよかったです。

 見出しのガリ風のロゴ(クレジットないけど鈴木哲也さんデザインっぽい)がいいですね。

 「萩尾望都に愛をこめて」の下段のオレンジのは、説明ありませんが書影ではなく、ためし刷だと思います。

 このラインナップだと忠津FC会報がないのはさみしいなー。

 式城アルバムからどれだけ収録されるのかなーと思っていたら6点でした。このころの原田さんはだいたいまっくろい恰好なので顔ハッキリしない写真でもすぐわかります(そしてタートルネック)。一番上に大きく掲載されている「1977年頃,コミケット会場」の写真、床に荷物が少なく見える(たまたま?)。
 
 「米沢嘉博の書物迷宮」の米邸の書庫マップ、左下の「同人誌(やおい)」は米本ではありません。英子さんがコメントされている娘さんの本です。左上の「趣味」のところに釣りの本なんかも入っています(どーでもいい情報)。
 写真だとよくわからないと思いますが、大判の本の棚以外は2列置きです。
 「吾妻ひでおに花束を」が3刷の書影*2なのはいいけど、帯がないのはさみしい。
 
・20世紀エディトリアル・オデッセイ(togetter)
http://togetter.com/li/658727
 


*1:これまでちゃんと書いたことがありませんでしたが、私がなんでここらへんにつっこむのかというと、米沢さんが亡くなられた後、明大・自宅両方の米本の整理をお手伝いしたという立場からです。両方ともやったのは私だけです。東京での源流展の1/2担当者でもありました。なので、この2章については元ネタはだいたい把握していると思います。

*2:3刷が1979年なのはまあいいとして(ホントはよくないかもしれないけど、違う話題なので追及しません。おそらく私がわからないだけで他の同人誌も細かく見るとクレジットがちがうのがあると思う。)

「Mei(冥)4号」の山岸インタビュー

Mei(冥)4号 (幽ブックス)

Mei(冥)4号 (幽ブックス)

 発売予定18日の「Mei(冥)4号」が売られていたので購入。
 特集は「女のコに読んでもらいたい こわ〜い漫画入門」。ガイド、作家コメントなど。

 私は当然のごとく「山岸凉子 ロングインタビュー」がめあて。10頁でロングとありますが、文字組みもゆるいし、図版も多いのでそんなに長くないと思います。明記されてませんが、コバンちゃんが出てくるので収録はご自宅の仕事場と思われます。

 ネタバレにならない程度に主な内容を書きます。

・怖い話を描きはじめたきっかけ
・怖い体験をどうまんがに使うのか
・怖いと思う映画
・母との関係
・兄にどう思われているか
・恐怖(と性)について

 ……等々でした。

 自作であげられているのは「ネジの叫び」「ゆうれい談」「日出処の天子」「私の人形はよい人形」「黄泉比良坂」「汐の声」「天人唐草」「鬼」です。これ以外に映画や他の方の作品名もあげられています。

 個人的には、性に関わる話をされているのが印象にのこりました
 
 特集内別記事で恩田陸さんインタビューがあり、そちらでも山岸作品に触れられています。
 また、近藤ようこさんの原稿は、山岸ファン的にもうれしいものでした。

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みたび「週刊女性」でBL記事

・「週刊女性」2014年4月22日(2785)号(主婦と生活社
   http://www.shufu.co.jp/magazine/woman/
 
 萌える袋とじ「大人のオカズ BL(ボーイズラブ)の世界にハマる!」めあてに購入。

 以前書いたとおり、「週刊女性」がBLをとりあげるのははじめてではありません。以下参照。
    http://d.hatena.ne.jp/mtblanc/20111112

 今回の記事構成は以下のとおり。計8ページの記事で、最初と最後のページは袋とじのガワの部分です。

・リード文(1ページ)
スペシャル対談「ぶっちゃけ、BLで本当にヌケますか?」(川奈まり子金田淳子)、BL用語辞典(囲み)(1ページ)
・川奈、金田、ちるちる編集部による作品紹介(合計5ページ)、
【コミック編】「学園モノ」「年下攻め」「ファンタジー」「おじさん萌え」「職業・制服萌え」「特殊プレー」15作品(3ページ)
【映画編】3作品、囲み「BLCDって何?」(1ページ)
【小説編】5作品(1ページ)

 まんがのオススメにだけ「エッチ度」の☆(3点満点)がついています。

・「あなたがハマるジャンルがわかる(はーと) BL適正診断チャート」(1ページ)

 2011年時点と同じく、「週刊女性」は、ときどき袋とじ企画を入れているのでこの記事が袋とじなのはBLだからではないと思います。ただ、前回よりヌキが強調されている分、あおり文句は過激化しているような気がしました。

「パンをくわえて遅刻遅刻」についてのメモ

 前の記事「「受が桜にさらわれそう」についてのメモ」で書いた「パンをくわえて遅刻遅刻」について13日の「AniMaGa(アニマゲー)」でとりあげられたようです。「AniMaGa」の放映地域外に住んでいますので私は未確認です。
 

https://twitter.com/TakeponFX/status/455147585418711040:twitter:tweet

https://twitter.com/TakeponFX/status/455147979221901313:twitter:tweet

 
・AniMaGa
http://animaga.tv/
https://twitter.com/ani_ma_ga
 



 
2020年5月8日の追記

 さらにさかのぼる証言。

ほうとうひろし氏による食パンをくわえて登校するキャライメージの元祖探し - Togetter
https://togetter.com/li/900834

「食パン遅刻少女」をメジャー化した男・竹熊健太郎が、あらためてその歴史と現状を振り返る - Togetter
https://togetter.com/li/1495650

「月がみてる」「受が桜にさらわれそう」についてのメモ

※長文です。

 BLで定型イメージがあるシチュで「受が桜にさらわれそう」「月がみてる(+「みせつけてやろうぜ」)」というのが話題になっているようです。「小説道場にありませんでしたっけ」と話題をふられたので考えてみたいと思います。

 まんがでもよく「最初に××したのはどれ?」というのがあり、たとえば「パンをくわえて遅刻遅刻」があります。はいぼくさん @highok の調査した範囲では本村三四子の作品が最古のものだそうです。しかし、これはコッペパンだそう。おそらくがつきますが、皆のイメージする「パンをくわえて遅刻遅刻」は本村さんの絵ではないのではないでしょうか? 源流をたどるのは大事だけど、広まったものと直接的には関係がない場合が多いと思います。

 私の考えでは、表現において「これが最初」というのを特定することは意味がないとは思わないけど、特定はむずかしく、かつ労力の割にあまり意味がないと思います。大事なのは広まった時期やその要因だと思います。
 前世紀にすでにあったとは思いますが、「受が桜にさらわれそう」「月がみてる」が広まったのは、私の感触ではネット時代に入ってからです。これ以前の発掘は同人誌やパソコン通信をよく知っている人でないとムリだと思います。

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「YOUNG YOU」連載「おしゃれTALK」

 需要があるのかどうかわかりませんが、「YOUNG YOU」初期の連載「おしゃれTALK」のリストをアップします。この連載、表記ゆれがありまして「おしゃれTalk」「Talk Avenue」「おしゃべりリラックスタイム」だったりしますが、どの号のどの部分でどの表記だったかは割愛します(1つの号の表紙と目次と本文でちがったりする)。
 「おしゃれTALK」は、エッセイ欄でほぼ正方形のカット1点+5〜6行くらいの文章という構成のページを1人2ページです。「to (動詞)」というタイトルをそれぞれつけるのが原則ですが、2ページで1タイトルだったり、独自タイトルだったりいろいろ。
 執筆者のなかで唯一まんが家ではない中島梓さんもこの形式(絵+文章)です。

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新・黄金バット

 twitterで話題になったので紹介。

 「新・黄金バット」というまんが作品があります。*1当時話題になったのかどうかまったく記憶にないのですが、私は最近知って読みました。

 まんがの作者は里見尤(さとみゆう)さん。「シナリオ協力」が「ORCA」となっています。もちろん原作として永松健夫さんの名前も掲載されてます。

 「サスペリア」(秋田書店)の増刊「学園ミステリー」下記の号に掲載されています。

・vol.29(1995年4月20日増刊号)
・vol.30(1995年6月20日増刊号)
・vol.32(1995年10月20日増刊号)

 あらすじを末尾に簡単に紹介します。ネタバレを気にする方は読まないでください。

 「「学園ミステリー」でなぜ黄金バット?」と思ったのですが、内容を読むとわかるとおり、一応学園モノといえなくはない作品にしてあります。過去にあった話のリメイクではなく新作です。

 黄金バットの造形はアニメ版より永松版というか絵物語のに近いような。もちろん現代のまんがの絵ですのでいろいろちがいますが、永松さんに敬意をはらっている気がして好印象。陰影がくっきりしている造形は素直にカッコイイ。*2 ACT.1の登場シーンはかなり力の入った絵で、「キタキタキタ」と思うできばえ(特に脛がいい)。各話40枚ですので、あと2回くらい持ちこたえれば単行本になった気がします。

 画報社の代表的作品が、「沙漠の魔王」を持っている秋田に掲載されるというのがちょっとおもしろいです。90年代だからこそできたのでしょうけど。

 文月(女子高校生)と護(その保護者)が襲われる→黄金バットが退治というパターンを繰り返すうちに、だんだん謎が解けていくという予定だったと思われますが、ACT.4の掲載はないようです。

 国会図書館で読めますので、興味のある方はぜひ。

*1:「新・黄金バット」の表記は正確には「・」はなく、「新」が四角囲みです。

*2:とはいえ、ACT.1の扉は進撃の巨人っぽい……。

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「奈落 タルタロス」の予告

 つぶやくだけにするつもりが案外長くなったのでこちらに。

 「ASUKA」をちまちまと見ていたところ根葉さんところの「カルトな山岸凉子」の「予告題名と本編の題名が違うマンガリスト」にないものをみつけました。
http://kategories.com/yamagishi/karuto.htm

 「ASUKA」1988年2月号掲載「奈落 タルタロス」の予告です。

 これは予告掲載を2冊確認しています。

 まずは「ASUKA」1988年1月号(第4巻1号)掲載の予告。
 使用カットはうす茶(? 金髪ではないと思う)の髪でタテロール、頭に赤い花を3つ挿した紫色の瞳の女性の絵です。
 文字要素は下記のとおり。

●いつもいつも美しかったフランソワーズは…!?
新春に贈る衝撃の問題作!!
巻頭カラー
山岸凉子
奈落(タルタロス)

 「奈落(タルタロス)」の文字色はピンク。

 次に「別冊ASUKA」1988年WINTER(第4巻2号)掲載の予告。
 使用カットは1月号と同じ。
 文字要素は下記のとおり。

●いつもいつも美しかったフランソワーズは…!?
新春に贈る衝撃の問題作!!
巻頭カラー
山岸凉子
フランソワーズ

 「フランソワーズ」の文字色は赤。

 
 「別冊ASUKA」掲載の予告のみタイトルがちがいます。
 尋常に考えると「はじめはフランソワーズで、後から奈落(タルタロス)にしたんだろう」と思ってしまいがちですが、1月号→別冊の巻号順で考えると「フランソワーズ」が後になってしまいます。年末をはさんでいますのでそのあたりはテキトーだったのかなー。それとも1月号の予告だけ修正して、別冊は忘れられてしまっただけなのか?

 タイトルの文字色のちがいについては一応記述しましたが、そんなに意味はないと思います(「>5:00 REVOLUTION」(竹宮恵子)の予告は内容に変更はないけど、1月号と別冊でタイトルの色がちがう)。

 ふたつの予告に共通しているあおり文句と2月号に掲載された「奈落 タルタロス」の内容はちがいますから、おそらく元は「フランソワーズ」だったと思われます。
 副題の「タルタロス」を丸括弧に入れる表示は、1月号掲載予告のみかと思います。2月号以降単行本に至るまで( )はないと思います。

 
 今回はたまたまみつけたけど、「ASUKA」は探すとまだありそうな気がします。

    ★

 ちなみに「別冊ASUKA」は同タイトルで3種類あります。

(1)1985年から2年くらい出たもの。
(2)2000年から2年くらい出たもの。
(3)↑の別冊が出なくなった後にふろくとして出たもの。

同タイトルでちがう時期に別冊を出す雑誌はチラホラありますが、まぎらわしいから内容につながりがないのならやめてほしい……。(1)と(2)は「花のあすか組!」が看板作品(のひとつである)という共通点があるので、まあ、許します(←何様?)。

やおい穴イベント(後編)

 http://d.hatena.ne.jp/mtblanc/20140116 のつづき。長文です。

 昨日のイベントは楽しかったですねー。サクサク進んでいるのに、ぜんぜん時間が足りないという高密度なものでした。皆が言っていることと思いますが、女王様の実体験から来る知見の重みが印象に残りました。
 BLまんがの性描写のおさらいあり、個人的体験に基づく話題もあり、個人的なものと公にされているものとの接続がよかったと思います。性的な産業について語るとそうならざるを得ないという側面はあると思いますが。

 イベントのtogetterまとめは下記。
 http://togetter.com/li/617069
 
 ひとつ余談的に。二村さんが「前立腺を開発してくれた人を好きなのかも?という錯覚が生まれることも」という話があったのですが、まさにその内容の小説があり、*1「へー」と思ったことでした。



 
 私が今回、BL小説を読みながら何をメモしていったかというと呼称を中心とした穴描写です。
 自分で言うのもなんですが、この内容はそれなりにおもしろいと思います。しかし、これでBL小説の何かがわかるというものではないというのはご承知いただけると幸いです。

 この表は下記のようなものです。

・51名の51冊から穴表現を書き抜いたものです。*2
・白峰彩子が簡単に確認できる単行本から情報を取ったもので、採集範囲は恣意的でデータとしては不完全です。
・メインの濡れ場の性器挿入シーンを中心に特徴的と思われるものを採っています(恣意的です)。よほど特徴的な表現でなければ1冊につき5〜10ヶ所程度をめどにしています。
・所有している作家・作品に偏りがあると思います。「なぜこの作家さん?」「なぜこの作品」という疑問が湧くかと思いますが、物理的制約があったため、どうしようもないのです。これは本当にすみません。スルーしてください。
・例えであげたものも「たまたま」ですので、引用された部分については納得いただけない場合があります。
・入力ミスを修正したりしたので、イベントで公開されたものと数字が少しちがっています。

 とりあえず結果をご覧ください。
 

 

穴の名称分類 件数
(388件中)
 
形容詞、比喩表現、短文 107 28% 二語以上
一語で暗示 143 37% 局部、内側、中
なし 47 12% どこに入れたのか明示なし
代名詞 35 9% そこ、あそこ、ここ
造語 29 7% 後孔、肉襞
- 16 4% 挿入シーンなし
人名 6 2% 攻もしくは受の名前
一般的な名称 5 1% アヌス
*3
 
 この表は「どう記述されているか」を虚心坦懐に読んでいったもので、現実とちがうからどうこうするものではありません。
 また、なぜずばり肛門ではなくやおい穴と思わせる描写なのか?という疑問の解決はめざしていません。
 ただ、悩みもあって、読み取るのが人間である以上、完全に機械的にデータをつくっていくことはできません。「蕾」だと「一語で暗示」ですが、「(人名)の蕾」だと「人名」もしくは「形容詞、比喩表現、短文(二語以上)」とも考えられれます。私はこういうのはだいたい「一語で暗示」にしています。複合型をどうするのかは最後まで悩みました(ので、ブレがあります)。描写の分類の立て方がそもそもまちがっているのかもしれません。

 項目別に見てみましょう。

一語で暗示(37%)

 最大派閥です。「うしろ」「中」「内部」「孔」といった一般的な国語辞典に掲載されている単語を転用している表現です。
 

形容詞、比喩表現、短文(二語以上)(27%)

 第二の派閥です。しかし、これはどう扱っていいのかよくわからない二語以上のものを寄せたものなので多くなるのは無理もありません。
 この項目を立てた時には、こういうのを想定していました。

拡げることも慣らすこともしていない部分
『紅楼の夜に罪を咬む』(和泉桂/幻冬舎 リンクスロマンス/2007年8月発行)p.138

奥の感じやすい部分
シナプスの棺 下』(華藤えれな/幻冬舎 リンクスロマンス/2006年10月発行)p.190

 動作や主観が入った描写です。
 ところが、下記のようなものが出てきて悩みました。

体の中
世界一初恋 吉野千秋の場合2』(藤崎都/角川 ルビー文庫/2008年11月発行)p.57

 こちらは、あまり主観や動作が入っていない書き方です。この場面でしたら、「体の」はつけない作家さんもいらっしゃと思います。が、藤崎さんはそうされていないのでそれを尊重。
 というようなことから「二語以上」という観点を導入。上2つと下の1つ以外に、その中間にあたる表現を含めることとなり、さまざまな描写入ることになりました。

なし(12%)

 裏の最大派閥。
 どこに入れたのか明示しないタイプです。今回のようなやり方だと、「ある」のカウントが優先されてしまい、「ない」はカウントできません。なのでこういう数字になっています。
 どういうものがカウントされているかというと、挿入シーンでの穴描写の省略されているものを「なし」主にカウントしています。たまに挿入は指の場合もありますが。このあたりもテキトーなんですすみません。
 でも、大半の「なし」がスルーされているのは本当で、これが最大派閥なんじゃないかという推定はそんなにまちがっていないと思います。

代名詞(9%)、人名(2%)

 このあたりは説明不要かと。

造語(7%)

 一般的な国語辞書に載っていない単語を使用しているものです。「後孔」「最奥」「後腔」「肉襞」「内襞」などがありました。*4

-(4%)

 挿入描写がないものです。
 本当にセックスしていないものから「ひとつになった」*5までといったカンジ。

 これは、短編、長編をまぜている(ショートショートはおまけの場合があり、エロシーンがない割合が高く、長編と一緒に扱うと問題あるかもしれません)ためにこの数になったと思います。

一般的な名称(1%)

 「アナル」「肛門」といった穴を指す言葉として一般的な単語を想定して項目を作りました。が、今回の51冊の中では『わたしが死んだ街』(神崎春子竹書房 麗人ノベルズ/1996年6月発行)の「アヌス」だけでした。神崎春子さん自体が1ジャンルという作家さんなので、BL調査に含めるのは妥当なのか問題がありますが、神崎さんに限らずSMを扱った作品には穴描写が多いので、1つとはいえ入れたのはいいかなと思っています。



 
 やっていけば、やっていくほどわかったのは「直接描写が少ない」ということでした。ただし、SMだと穴描写は欠かせないので別枠と考えます。
 半分くらい作業したところで、「これは肛門ではないな」という感触がしました。

 まず、「いや、肛門はそんな機能ついてないから!」とツッコミたくなる描写があります。そもそも穴については「狭い」程度以上のくわしい描写が少ないのです。これは大半の作品が受視点なので、自分の穴が他人と比べてどうなのかとか、攻にとってどう「イイ」のかとかってわからないんで、当たり前といえば当たり前です。少ない描写の中でよくあるのが「自分の意のままにならない挙動」です。たとえば下記のようなもの。

ひくつくそこが自分の意志とは裏腹に思いきり風間を締めつけてしまう。
『挑発の15秒』(秀香穂里徳間書店 キャラ文庫/2005年1月発行)p.209

 実在の肛門や直腸について描写している訳ではないので、この手の描写のリアリティについては考えません。考えたいのは「この文章で何を書きたいのか」ということです。おそらく快楽の深さ(から来る気持の深まり)です。BL小説のエロシーンでは受の快楽はほぼどの作品でも追及されます。なぜなのかよくわからないのですが、「挿入の痛みを上回る幻想が必要」ということではないかと漠然と思っています。*6

 痛みを上回る快楽への追及は深いです。声や乳首や前立腺が「必ず感じる万能ボタン」としての役割を果たしてきました。*7特に前立腺の描写は目立ちます。たとえばこんなん。

手の甲が狭間につかえるのもかまわずに指を伸ばし、さぐるように壁をつつき上げて、平を狂わせる場所をじきに見つけ出した。
『ご主人様と犬』(鬼塚ツヤコ/リブレ ビーボーイスラッシュノベルズ/2007年6月発行)p.250*8

 
 「前立腺」という単語を使っているのは今回見たうち2作品でした。なので、それ以外の作品は、肛門に似たやおい穴のように前立腺と似た別物の可能性はなくもないです(笑)。


 そして何より、アナルであることの確実な描写がない。*9
 もちろん、「小さな入口」*10や「後腔」*11などと書かれているものが何なのか捕えることによってだいぶ変わるかと思います。これらを「アナルに決まっているだろ」と読むか「そうは書かれていないので、別物である可能性もあるのでは?」と読むか。もっと発想を逆転させて、「代名詞で呼ぶのは「そこ」に名前がないからではないか」と考えることも可能です。
 そして、「入り口」「入口」*12という描写は少なくないです。出口機能が必須の器官をかりそめにも「入口」と呼んでいいものだろうか?という疑問が。
 
 ということで、51冊見てみた結論も「これは肛門ではないと思われる。少なくともそのように描写されていない」ということになりました。

 今回の作業は楽しかったです。また機会があったらもう少し「妥当な対象は何か」というのを考えてからしたいと思います。
 



 
※約一年後の補足があります。分泌される液体についてです。興味のある方はあわせてご覧ください。
  http://d.hatena.ne.jp/mtblanc/20150204
 

 

*1:『オヤジだらけのシェア生活』(松雪奈々/二見書房 シャレード文庫/2011年10月発行)

*2:50冊にしようとしたら、かぞえまちがえてました……。すみません。こういう算数のできない人がせいいっぱい数えてみたのがこの表ということで。

*3:この一覧ではわかりませんが、51冊85作品中、12作品は「エロシーンなし」or「挿入描写なし」です。「1作品」とは目次にタイトルがあがっているものです。目次にはないけどそれぞれのタイトルがついた章立てあるものは「1冊1作品」。「No.3」「No.4」のような番号のみだけで、個別タイトルがついていないような小説でも目次に書かれている場合は「1冊複数作品」としています。データ数が388ですから、1作品あたり5〜6個のデータをとっていることになります。

*4:「最奥」は「一語で暗示」に初めは入れていましたが、後に「造語」にしました。イベントで「一語で暗示」の例として読み上げられましたが、現時点では「造語」に移動しています。すみません。今日改めて見直し、「最奥」はすべてこちらに移動してあります。

*5:「搭」(岡本賢一、笹生撫子/『趣向』収録/テイアイエス デディ文庫/2003年10月発行))

*6:根拠なし。もちろん、他にもいろんなものが追及されていますが、今回はお題と関係ないので割愛。

*7:ドライオーガズムは一瞬流行の兆しを見せましたが、ほぼ消えました。

*8:「平」は受の名前です。

*9:後半の作業中に「アヌス」が出てきましたが、『わたしが死んだ街』(神崎春子竹書房 麗人ノベルズ/1996年6月発行)のみです。案の定というかでSM作品。

*10:『昼となく夜となく』(ひちわゆかビブロス ビーボーイノベルズ/2004年4月発行)p.146

*11:『恋 私立櫻丘学園寮』(橘紅緒/大洋図書 シャイノベルズ/2006年4月発行)p.208

*12:388件中19件。

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