1.文学館とは  〜なぜ図書館ではいけないのか〜

 私が、児文の存続希望の各要望書やニュースを見ていて、最も情報が少ないと感じるのが「なぜ図書館ではいけないのか」という問いに対する答えです。たとえば、マンガ学会の要望書には「(児文の活動は)通常の図書館、および図書館司書が担いうる活動の域を越えている」とあります。

 ですが、これだけだと具体的にどう違う存在なのかがわかりません。そもそも児文だけでなく、「文学館」という施設がなんなのかがわからないのです。そこでまず、文学館とはなにかについて見ていった上で、児文とはどういった施設なのかを見ていきたいと思います。

 文学館は、図書館と博物館の中間的存在とされています。 博物館、図書館は以下のような目的のもと運営される施設です。

  図書館=図書を中心とした情報資料を収集。利用者への提供をする施設。
  博物館=特定分野についての資料を収集、保存。展示、研究する施設。

 そして文学館は、資料を下記目的により活用してくいくための機関です。    
   1.収集すること
   2.整理すること
   3.保管すること
   4.一般公衆の利用に供すること
   5.一般公衆の教養に資する事業を行うこと
   6.調査研究を行うこと

 こうしてみると、文学館は、確かに図書館・博物館の中間的存在であるようにみえます。

 各施設同士の共通点と差異を比較してみましょう。

 3施設とも、文学館の利用目的1、2に挙がっている部分、つまり、利用者への提供をその目的に持つところは共通しています。これは当然のことで、どれも社会教育を目的にかかげる施設だからです。どの施設も、資料を保存、調査研究、提供していますが、施設によって重点を置いているところがちがいます。

 図書館と文学館では、図書、つまり、見たり読んだりすることを目的とした紙資料を中心に扱うところは似ています。が、図書館は資料を保存して次代に残すことより、図書館資料の提供こそが最大の業務であるとされます。*1

 あくまでも、図書館の存在目的が提供に比重がおかれているというだけで、現在運営されているすべての図書館がそうだという意味ではありません。図書資料以外の資料を重視したり、郷土資料の保存を重視する等、図書館ごとの方針はありますので、すべての図書館資料が提供優先という訳でもありません。

 それに対して、文学館は保存・研究の優先順位が高いといえます。文学館による社会教育は、展示・講座といった手段によるもので、研究を通してのものになります。収集した資料の一般公開をしているところも少なくありませんが、文学館にある資料は図書館の資料とは収集方針が違います。図書館の資料は利用者の要望のあるもの、文学館の資料は研究のためのものです。文学館の資料はその存在そのものが研究の成果といってもいい体系を持ったものになっています。

 図書館と文学館は扱う資料は近いものがありますが、目的も提供されるサービスもちがうものであり、どちらかがどちらかの代わりになることはできないと私は考えます。

 調査研究を目的に掲げているところは、博物館と文学館とで共通しており、また、博物館には必ず図書室がありますが、これはそこが図書館を兼ねているという意味ではありません。博物館は、博物館法により図書室の設置を義務付けられていますが、基本的に紙資料を扱うことの優先順位は低いものです。どのようなテーマの博物館でも、その館の扱う資料そのものが優先されています。施設の設備も紙資料にあわせては作られていませんので、博物館が文学館の変わりになることもできない、と私は考えます。

 実際、文学館とは、図書館法・博物館法のいずれからも適用外であり、特定の法令は存在していません。これが、文学館が他の二つの施設とちがっているという最もわかりやすいところではないかとも考えます。

 文学館は「文学関連の資料を収集保存する博物館である」、あるいは「保存・研究を重視した図書館である」、という言い方は可能かもしれません。
 が、保存するものや使用目的を考慮すれば、建築する際の設備の面でも、最初から文学館は「文学館」という施設として設立されることが大事で、今、文学館の資料を図書館や博物館に持っていくとなると、移転の場所をその資料にあわせてカスタマイズするための費用が、莫大なものになるはずです。

 文学館は全国で580館ほどあり、業界団体として日本近代文学館が中心となって運営されている全国文学館協議会があります。会員が現時点で92館(他に賛助会員2社)。博物館が全国文学館協議会に参加(東京都江戸東京博物館)といったごく少数の例外はあるものの、基本的には図書館、博物館などの協議会とは別のものとして運営されています。

 また図書館に併設されている文学館(青森県立図書館と青森県近代文学館)はありますが、これは役割がちがうからこそ併設というかたちをとっているといえます。つまり、いくら似たところがあろうとも、差異が大きいので別物として扱われているというのが現状なのです。

*1:ここで言う図書館は図書館法の下で運営される一般の公共図書館のことであり、専門図書館学校図書館大学図書館国会図書館は除外します。