ケンジとシロさん(1)(ネタバレあり)

(ネタバレがあります。)
  
  
 よしながふみさんはC71(2006年冬)に「そっとしておいて」という「西洋骨董洋菓子店」の14冊目の番外編同人誌を刊行し、同人誌活動を休止していました。*1

 アンティーク同人誌は、本編の後のことを描いたもの。本編では解消したと思っていたトラウマシーンが小野に、橘にまだまだひっかかっていたことがわかったりして、こちらはこちらでスリリングで目が離せないものでした。

 今回(C89)の新刊「ケンジとシロさん(1)」は青年誌「モーニング」にて連載中「きのう何食べた?」の前日譚。作者が描く番外編として読者が見たいものを見せてくれてる、理想形というかかゆいところに手の届く内容の1冊です。

 アンティークや月とサンダルの同人誌が、BLもしくはBLと親和性の高い雑誌の掲載作品の連載完結後のものであったのに対し、配慮したであろうものにされています。

 これまでのよしなが同人誌は白背景に1〜2人の人物のカットとタイトルの表紙が定番でした(例外あり)。今回はそれらの要素に加えて「成人指定」という墨書風の4文字が入りました。
 で、読んでみるとそこまでぐちゃぐちゃの汁々しい内容ではないです。アンティーク本はそういうドロドロの行為と関係とのバランスがすばらしくて、エロでないと描けない話が成立していたと思うし、描写としてもド真ん中を描いていました。

 が、何食べ本はそういう描写ではないです。うまいことコマからずらしたり、さまざまな工夫がされています。ぐちゃぐちゃを描かなくてもまだ保てる内容だというのもありますが、青年誌に連載中の作品であるというのもこのような描写にされた理由のひとつかと勝手に思います。

 それにしても今回の本のおどろきは攻がメガネなところ。三暮時代から「よしながカーストではメガネが最上位説」を唱えていた私はびっくりしました。まあ、だから彼らはうまくいかなかったんだとも思えるし、現在、シロさんはちゃんと(?)メガネですし。まだ定説は崩れていないと主張していきたいと思います。 ↑で述べた配慮以外にも休止を挟んでいろいろ変わられたと思いました。

 ペーパーはなく、よしながさんからのコメントとしては前書があるのみ。今後は可能であれば冬に参加するとのことです。タイトルのナンバリングは続きを予定としているという意味ではなく、次回があったらタイトル考えなくていいように(大意)ということだそうです。なので、今後も同人活動について何も告知はありません。
 こういう明言を避けるところ含めて考え抜かれた復活というのはひしひしと感じられました。

 とりあえずエロはこの程度にしておいて、新しい読者さんに慣れていただいて、少しずつハードにしていく作戦だったらいいなー。というかそう信じます。

 で、以下わたくしの今日の感想です。

 今回の新刊は、おそらく大沢家政婦協会の本としてはじめて書店卸のある同人誌です。通信販売で買える訳です(現時点では予約停止中)。コミケでBLの日となればおともだちもいっぱい行きます。いくらでもおつかいも頼める訳で、少なくとも私は現場に行かなくても入手可能です。
 それでも並んだのは、9年前、ペーパーを読んで「え、お休みしちゃうの???」とがっかりした経験を持つ者として復活を現場で迎えたかったからです。とはいえ朝イチでなくてもいいかなー、寒いしなーとぐずぐずしていたのも事実です。

 迷ったすえ、10時すぎに列につきました。この時点で東4ホールの角をまがって最後尾に行かねばなりませんでした。以前と圧倒的にちがうのは男性の多さ。2割近かったと思います。青年誌掲載作品だからなのか、9年のあいだに男性にとっても有名作家になったからなのか。転売目的の人もいたかもしれません(それは女性でもいるでしょう)。大沢家政婦協会の列としてはちょっと見ないカンジでした。

 列についてすぐにお品書きがまわってきました。今回の頒布物は1種類であること、値段は500円、10限、成人指定なので年齢がわかるものを提示することなどが書影つきで書かれています。

 スイスイ進みますがスタッフさんが「列がのびているので少しでも詰めてください」というような内容をアナウンスされています。10時半ころに東5ホールに達したのか、列に折り返しが入りました。私はそのころには角をまがっていたので折り返しとは関係なく待機。10時43分くらいにサークルスペース手前まで移動(サークル前に20人くらい並んで、通路確保のため列がいったん分断してからつづくしくみ)。このサークルスペース前のグループに入った時点で年齢確認がありました。年齢確認(&列整理)をされている方のテキパキ感といったら。
 売り子さんもテキパキ健在でした。もちろん今どきですから、壁サークルさんともなればテキパキしない売り子さんもいないと思うのですが、これが大沢家政婦協会らしさだなーとなつかしく思うのです。本がほしいという気持ちや作品が好きというのがまず第一にあるけれど、このテキパキ感、考え抜かれた人員配置を含め、私はよしながふみ同人活動だ思うし、それを愛してやみません。

 私は血中同人者指数は低いと思っていたのだけど、大沢家政婦協会の列にならぶことにこだわりがあったらしい気持を発見して、自分のことながらややおどろきました。

 ゆるゆるとでも息の長い同人活動を願ってやみません。



追記:14時すぎに完売されたそうです。

*1:2007年8月のC72は参加されていますが新刊なし。