なのはな

なのはな (フラワーコミックススペシャル)

なのはな (フラワーコミックススペシャル)

・『なのはな』(萩尾望都小学館

 震災、というか原発に関連する作品をまとめた1冊です。
 ハードカバー。書影だとカバーがモノクロに見えますが、黒く見える線は銀の箔押しです。書影ではまったく見えない背景がカラ箔で描かれています。カバーをはずすと菜の花畑という趣向。

 「なのはな」「プルート夫人」は初出で読んでいます。「なのはな」は大変評判が高く「新境地」とまで言われていたのだけど、「新境地」だと私は思えませんでした。心を込めて描かれた作品であることは確かで、あのタイミングでこの精度の作品を出されたのは感服しました。ただ、素直に読めたかというと「うーん…」でした。菜の花だけで解決できないことはすでに知ってしまっているからだと思います。

 「プルート夫人」「雨の夜 ウラノス伯爵」「サロメ20××」は寓話化されている分、フツーに楽しめました。こういう作品に「楽しめた」はふさわしくないんでしょうが。3作まとめて読むと同じからくりなので、もう一工夫ほしかったかなあ。「サロメ20××」は部分的に元のセリフと同じのを使っているところがうまい。
 こういう擬人化はまんがが得意な方法です。技能?能力?にふさわしい仕事だと思いました。

 描きおろしの「なのはな 幻想『銀河鉄道の夜』は「なのはな」の後日譚。こちらも救いのある内容。

 私は地震やそれ以降の問題については割と思考停止している部分があって、あまり理解していません。きちんと知識を蓄え、考えている方々は尊敬しますが、それとはまた別の話で「言いたいこと」があまりにもあけすけに見える作品は読者として楽しめません。だから、この本に収められた作品について私はあまりいい感情を持っていませんでした。

 ちょっと話は変わって、『いまこそ私は原発に反対します。』(編:日本ペンクラブasin:4582705103収録の萩尾さんの小説「福島夢十夜」を読みました。
 おおざっぱな内容としては許容範囲でした。しかし、小説としてはあんまりうまくないなというのが正直な感想でした。小説家ではないので、小説のテクニックまで求めるのは酷なんでしょうけれど。
 私が考えさせられたのは、p.134「美しい緑の福島」という描写。これにどれだけ説得力があるのか? うわっつらの表現ではないか?
 萩尾さんはまんが家なのだから、「美しい緑の福島」と書かずに見せることができるのに書いてしまった。私はそれが気になりました。

 初出で読んだ「なのはな」はなんとなくすわりの悪いカンジがしていました。今回の単行本化で読んだ「なのはな」は「福島夢十夜」読後の「なのはな」です。単行本の「なのはな」は「ああ、これが萩尾さんだ」と安心して読みました。
 この幻想性と絵の力が、萩尾さんにふさわしい表現だと思います。今回は題材や他の雑音で私は素直に楽しめなかった。けれども萩尾さんの力を感じることができたので私という読者にとって心に残る1冊になりました。